鎮魂歌
薬堂氷太

穏やかな霧の中
ぼやけた残像、モノクロの景色

僕はそこで君を見た

手を伸ばしても、意識は遠い感覚の淵
走っても、どこまでも続く夢幻の霧

喉が枯れる勢いで、名前を叫び
君は気がつき振り向けば

見慣れた顔には一筋の涙


寂しげな表情


暗い目線


何か必死で伝えようとする君の声は
僕には届かず
もろく崩れる地面に足を取られ
君は淡い残像の中に消えていった


気がつけば見慣れた天井


夢の後味


君の写真


嗚呼、そうか
君は寂しさを伝えたかったのか

僕は
長い間、焦燥の日々で忘れていた過去を思い出した


日が落ち、伸びる枯れ木の陰の先
たたずむ僕の目の前には


赤い花束


君の墓


自由詩 鎮魂歌 Copyright 薬堂氷太 2010-08-04 14:49:27
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