うたを飼う
未有花

わたしのなかのうたが戻って来ないので
別の誰かのうたを飼うことにした
今はやりの詩人のうただ

アンティークの鳥籠の中で
はやりのうたは
毎日ひとつずつ違ううたを歌ってくれる

人を愛するうた
故郷を偲ぶうた
遠い世界を夢見るうた

どのうたもわたしを慰めてくれるけど
気付けば視線は窓の外をさまよって
わたしのうたを探してしまう

今頃どこにいるのだろう
毎日窓を開け放したまま
戻って来るのを待っているというのに
おまえは気配すら見せなくて

今すぐわたしのうたが聞きたい
そう思うとはやりのうたがつまらなくなって
籠の外へ放してしまった

はやりのうたは
自由への喜びを力いっぱい歌いながら
空の遠くへと飛んで行った

これでいいのだ

今はわたしのなかのうたも遠くにいるけれど
きっといつかは戻って来てくれるだろう
それまで窓は開け放したまま
わたしはいつまでも待っていることにした


自由詩 うたを飼う Copyright 未有花 2010-08-04 08:33:33
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