水のテーゼ
umineko
久しぶりに区民プールに行く。全然気づかなかったが、この街にはあちこちにプールがあるんだよね。そんなにニーズがあるんかしら。プール。
水泳にはあまりいい思い出はない。中学の授業ではおぼれかけた。高校の遠泳でも遭難寸前だった。そこまで好き、といった類いのものではない。水が、基本的に駄目なのだ。身構える。すると水は他人になる。
25メートルを一往復して、なんとかおぼれずに行けることがわかってほっとする。(じゃあちょっと、タイムとか意識しちゃう?)こうやってすぐ調子に乗るのが私の真骨頂。
すると。とたんに水が意地悪になる。スピードを出したいと、私はもがく。水は壁になり、私をあざ笑う。
水の上を、滑るように。友人があきれて忠告する。あせっちゃだめだよ。ストロークとストローク。その間をゆったりと。うん。そうだね。やってみる。
最初の数ストロークはいいのだ。だけど、すぐにあわあわして、あわれな柴犬みたいになってしまう。何かが違うんだよね。それがなんだかわからない。
あなたをつかもうとして。手を伸ばして指に触れた。あなたがやさしくないことを、私は瞬時に理解する。それでも。
あなたを追いかけた、あの夏の日のように。
私は泳ぐ。水は私を、いつか許してくれるだろうか。
あるいは、夏のあなたのように。
やさしいふりで遠ざかる。