マリンスノウ
相馬四弦

ずっと

深い底の ほんの少し上

ふたり歩いていく ひしめく無音の群に押されながら

姿を失ったわたしと

透き通るからだに 誰かの貝殻を包み込んだ ちいさな海の仔 と

ふたり歩いていく

まだ覚束ない触手をぴんと伸ばして

必死にわたしの指に絡みつかせながら



船が落ちてくる 瞳を見開いたまま 落ちてくる

底に沈むまでに ゆっくりと冷やされてゆく

セントエルモの残光が

海底平原を幽かに照らして いつまでも消えなかった

マリンスノウ ひらひらと青く輝く しずかな暗闇に

海の仔は不思議そうに首をかしげて

ちょいちょいと わたしの手を引いた



どれくらい時間がたっただろう

船の死骸の 少し傾いた舳先に並んで腰掛けて

わたしと海の仔は もうずっと眺めている

手をつないで ずっと青く マリンスノウの降りしきる

時折 お互いの顔を確かめては ここにいる

またすぐに前を向いて

いつまでも眺め続けていた






自由詩 マリンスノウ Copyright 相馬四弦 2010-08-02 12:39:53
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