マリンスノウ
相馬四弦
ずっと
深い底の ほんの少し上
ふたり歩いていく ひしめく無音の群に押されながら
姿を失ったわたしと
透き通るからだに 誰かの貝殻を包み込んだ ちいさな海の仔 と
ふたり歩いていく
まだ覚束ない触手をぴんと伸ばして
必死にわたしの指に絡みつかせながら
船が落ちてくる 瞳を見開いたまま 落ちてくる
底に沈むまでに ゆっくりと冷やされてゆく
セントエルモの残光が
海底平原を幽かに照らして いつまでも消えなかった
マリンスノウ ひらひらと青く輝く しずかな暗闇に
海の仔は不思議そうに首をかしげて
ちょいちょいと わたしの手を引いた
どれくらい時間がたっただろう
船の死骸の 少し傾いた舳先に並んで腰掛けて
わたしと海の仔は もうずっと眺めている
手をつないで ずっと青く マリンスノウの降りしきる
時折 お互いの顔を確かめては ここにいる
またすぐに前を向いて
いつまでも眺め続けていた