誕生日
麻生ゆり

今宵わたくしは清らかな月が照らす中で
静かに静かに死に向かうのでした
わたくしよりひとまわり大きなわたくしが
わたくしを殺しにくるのです
あぁ月が南中する…
時刻はまさに0時をまわるころ
大きなわたくしがやってきました
そしてわたくしの首を
そっと優しくしめてゆきます
徐々に徐々に気管がふさがれ
わたくしは声をあげることはもちろん
息をすることさえできなくなって参りました
でも仕方ないのです
わたくしもちょうど1年前の同じ時間
ひとまわり小さなわたくしを殺しました
そうしてわたくしは1年間わたくしを演じてきました
今はまさに交代のとき
わたくしの意識は
少しずつ首をしめられてゆく中で
だんだんと薄れてゆきます
そして新しいわたくしと同化してゆくのです
これがわたくしの最期の記憶
窓から差しこむ月の光が青かったことが
わたくしのわたくしたる意識に
しっかりと刻みこまれたのでありました


自由詩 誕生日 Copyright 麻生ゆり 2010-08-02 02:15:48
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