邂逅
國朗


ある時
古い本を膝に開いたまま
うとうとしておりますと
天井から
大きな蜘蛛が
するすると降りて参りました
そのまま眺めておりますと
その蜘蛛めは
わたくしの
本の上に降りまして
じっと動きません
わたくしのことを
見ているようでございます
「何か用かね?」
そう尋ねてやりますと
「さぁてね」
このように答えます
「なぜ動かないのかね?」
そう尋ねてやりますと
「さぁてね」
またこのように答えます
なんともしようがなくなって
「君は誰だね?」
そう尋ねてやりますと
「お前こそ自分が誰だわかっているのか?」
わたくしはなんとも言えませんで
もじもじしておりますと
「そんなものさ」
蜘蛛はそんなことを言って
どこかへ行こうと
身じろぎをします
わたくしは
なんだか急に悲しくなりまして
蜘蛛に何か言わなくてはと
口を開きかけました
すると
ばさりと音がして
膝に開いた本が落ち
目が覚めました
わたくしの手に
きらきら光る蜘蛛の糸が
絡まっておりました
もう会えないのかと
寂しくて
泣いたのは
秘密でございます





自由詩 邂逅 Copyright 國朗 2010-07-31 19:24:19
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