廃退、わたし
百瀬朝子

切なさに押し倒された心は
バクテリアに分解されて
影もなく
跡形もなく
消滅します

そう、だから
安心して眠るといい

悲鳴は求めています
私はマジックアワーに焦がれ
真っ赤に燃える青空に
夜の気配がにじむしとしとと
こぼれる雫に
さよならを告げます
コンクリートの染みは
きみからあふれこぼれた悲しみです

  だから舐めて確かめたい
  甘いのか
  しょっぱいのか苦いのか
  きっとそれは不味いだろう
  それでもだから
  私は舐めて確かめたい

歯磨きは嫌いです
歯石がこべりついた前歯の裏は
居心地が悪いです
この世に放り出された戸惑いと
不条理に包まれながら
安住という言葉を辞書で引きます
どうか答えは―此処―でありますようにと
踏みにじられても
願いは止まないのです

そう、
この鼓膜を揺らすのは
みんなの秘め事です

切なさに押し倒されても
安心して眠っていい
あとは消滅するだけです

  振り返ってできる足跡は
  濡れた土に刻まれたまま
  枯渇した大地に残る
  私は舐めて確かめたい
  カラカラに乾いた心に
  バクテリアを放ちたい


自由詩 廃退、わたし Copyright 百瀬朝子 2010-07-29 23:17:19
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