誰も涙を流さない
薬指

数えきれない足音が
止まることなく行き過ぎる

結ばれないいくつもの視線は
風に舞う木の葉のよう

雑踏の中
交差点の真ん中
ここがどこだかわかっているのに
どこにいるのかわからなくなってしまう



暗い空に赤い風船が一つ
不安げに漂っている

行ったり来たりを繰り返してから
ビルの向こうに消えていった

どんなに手を伸ばしても
決して届かないものを
あとどれくらい知らなきゃならないんだろう



鮮やかに引かれた飛行機雲が
人知れず薄らいでいくように

優しく強く輝いていた月の灯が
朝焼けの中に溶けていくように

みんないつか一人ずつ
どこかへ消えていってしまう
そのことだけは決して消えない



いつだって波は穏やかじゃない
激しく打ちつける雨は
迷子の蝶も
雀の卵も
蜘蛛の巣も
みんな壊してしまう



涙は流れる
涙はいつか
流れる





聞こえるだろう

明日がどこかで呼んでいる
明日のことはわからない
明日がもしも来なければ
誰も涙を流さない

でもそれは虹色のクリーム



明日がどこかで呼んでいる
明日のことはわからない
明日がもしも来なければ
誰も涙を流さない

でもそれは虹色のクリーム


自由詩 誰も涙を流さない Copyright 薬指 2010-07-29 17:30:30
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