みなしごとライオン
麻生ゆり

その子どもには親がいなかった
そのライオンには子どもがいなかった
1人と1匹の目的は1つだった
そして彼らはともに出会った

寂しさは他者がいて初めて感じるもの
両者は初めてそのことに気づく
これまで孤独感という不確かなものが
1人と1匹は
その存在が本当にあることを学んだ
みなしごは母を求めて泣き
ライオンは子を求めて鳴く
彼らはお互いをずっと探していたことを知った
そしてこの出会いが偶然ではなく必然だったことも

いくら人が世界最強の生物だって
いくらライオンが百獣の王だって
独りでは
何もできないのだ
1人と1匹はお互いを必要とし
必要とされていることで
ひとひらの温もりを得ていたのであった
みなしごはライオンの背を撫ぜ
ライオンはみなしごの顔を舐める
ときに飢えたとしても
彼らはじっと耐えしのんだ

だが幸せは長くは続かない
あるときハンターがやってきて
みなしごを「救出」しに来たのだ
ライオンは頭に弾丸を受け
どう、と倒れて動かなくなった
みなしごにはわけが解らなかった
「死」という概念が欠乏していたからだ
皮肉にもライオン最期の教えは
自ら「死ぬ」ことで幕を閉じた
ハンターはみなしごを人間世界に連れていった
ハンターはライオンを剥製にしようと連れていった

人間どもはみなしごに様々な「教育」をほどこした
「矯正」しようしたのだ
しかしみなしごは文字が覚えられなかった
数を数えることもできなかった
言葉すら使えなかった
これら全てこれまで不必要だったのだから
そして人間世界の研究者や学者といった
みなしごにとっては意味のない肩書きを持つ2本足の生物が
入れかわり立ちかわり無駄な作業をしていった
だがみなしごは人間たちが欲しい回答を与えなかった

そしてみなしごはたった独りでこの世を去った
愛し愛される喜びを共感し合ったライオンと
永久にはぐれたままで…


自由詩 みなしごとライオン Copyright 麻生ゆり 2010-07-28 15:33:25
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