誰も知らない
寒雪



道のない
草木が生い茂る密林を
ただひたすら進む
穏やかな清流のせせらぎや
沈みゆく夕日の紅さや
心を落ち着かせてくれる
清涼剤もなく
目の前に広がる
絶望にも似た密林を
進み続ける


麓から見た頂は
冠雪に美しく化粧され
挑もうとする人々を優しく見守っている
そんな佇まいを見せていた
だが一度足を踏み入れると
行けども行けども
草木や砂利道が無限に広がって
みんなの心を折れさせる


山よ
言葉を持つなら答えてくれ
なぜそこまでに
人々を絶望に追い込むのか
ただ子供の頃のように
頂からの眺望を
無邪気に喜びたいだけなのに
頑なにみんなを拒むのはなぜだ


朝焼けに照らされた
先々に転がる白骨が
仲間になれよと
手招きしている
誘惑に負けず
頂まで上ることが出来るのだろうか
そろそろ足も動かなくなってきた
このあたりで一度
腰を下ろしてみようか
二度と立てなくなるかもしれない
そんな恐怖を感じながらも
右に左に揺れる気持ち
振り返るとすぐそばに絶望と諦めが
いるような気がするから
ただひたすら
前を向いて進む
いつまで無事でいられるだろう
山は決して答えてはくれない


自由詩 誰も知らない Copyright 寒雪 2010-07-28 07:27:57
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