朧月

理想の母とは
いつも友人の母だった
決してとることのない仮面の笑みが
もたらす安心の温度にほどけていった

なぜ母は私をよぶとき
まゆげをきりりとたてているのだろう
目の端が尖っているのだろう

驚くほど低い音からはじまるあなたの言葉は
私の背中を流れる汗のように
表面をすべりおちてゆく
その粒を私は 後でまた
再生してしまうのだ

語尾を小さく 突然に会話を終えるのがあなたの癖だ
まるで結論をださないようにするかのような

父との終わりに
どんな会話がなされたのか私は知らない
ただ家族というものは幻想で
男と女が
二度と交わらないと決めたとき
あっけなく終わるものだと知った

母はいつまでも母で
自分の立つ位置に迷っても
あなたがあきらめたように私に上座を譲っても
はるかに遠いところにいて
私からその膝元へゆくしかないこと

生んでくれた
という言葉の意味は
あなたありきではじまる生の原型なのだ



自由詩Copyright 朧月 2010-07-26 10:23:16
notebook Home