源
朧月
理想の母とは
いつも友人の母だった
決してとることのない仮面の笑みが
もたらす安心の温度にほどけていった
なぜ母は私をよぶとき
まゆげをきりりとたてているのだろう
目の端が尖っているのだろう
驚くほど低い音からはじまるあなたの言葉は
私の背中を流れる汗のように
表面をすべりおちてゆく
その粒を私は 後でまた
再生してしまうのだ
語尾を小さく 突然に会話を終えるのがあなたの癖だ
まるで結論をださないようにするかのような
父との終わりに
どんな会話がなされたのか私は知らない
ただ家族というものは幻想で
男と女が
二度と交わらないと決めたとき
あっけなく終わるものだと知った
母はいつまでも母で
自分の立つ位置に迷っても
あなたがあきらめたように私に上座を譲っても
はるかに遠いところにいて
私からその膝元へゆくしかないこと
生んでくれた
という言葉の意味は
あなたありきではじまる生の原型なのだ