別れ
結城 希

前略

お久しぶりです。元気にしていますか?
私は元気です。暑い日が続きますね。

あの頃は毎日のように顔を合わせていましたが、最近はめっきり疎遠になってしまいましたね。
人って、トコロテンみたいに、過去を切り捨てないと、前に進むことができないのかな、なんて、時々ふとそんな風に感じてしまいます。

最近、アパートの隣の部屋に外国人の男性が引越してきました。トルコから来たムスリムの方で、この春から東京の大学院に研究生として通っているそうです。数学が得意らしく、「困ったことがあったら助けてあげるよ」と言ってくれましたが、私はまだ彼に頼むべき困難に出くわさないでいます。

さて、Aさんのこと、もうお聞きになりましたか。
そう。南伊豆で水難に遭って、亡くなったということです。

Aさんは、当時は遅刻や忘れ物が多くて、私たちを困らせてばかりいましたけど、その彼が死んでしまったなんて、とても信じられない気持ちでいっぱいです。
そういえば、卒業してから一度も会ってなかったな、ということを、今更のように思い出しました。

「会おうと思えばいつでも会える」なんて、ついつい思ってしまいがちですけど、そうやって知り合いをないがしろにするのは、よくないことだということに気づかされた思いです。

Aさんの訃報を聞いてからというもの、胸にぽかんと空洞が空いてしまったようで、なんだか何も手がつかないような気分でいます。(当然、会社には行っていますが。)
その癖そいつはブラックホールのように何かを求めていて、私はどうしようもない衝動に衝き動かされるのです。

それでというのも変ですが、最近は、休日に色んな人に会うようになりました。
先週は、後輩が一人で経営しているというアパレル店に遊びに行きました。あなたも知っているMさんです。
彼女は(幸いにして)とても忙しそうでしたけど、なんとか午後に時間を作って、お茶をすることができました。

あなたとも、よろしければ、ぜひ一度連絡を取りたいと思っています。
時々はお会いして、お酒を一緒に飲みたいものです。
あの、王将のまずいビールが懐かしいですね。(もちろん、会う時はあそこ以外で。)

よろしかったら、下記にご連絡下さい。

 ○○○-×××@xxx.com

ご連絡をお待ちしています。
いつまでも、お元気で。

  草々


自由詩 別れ Copyright 結城 希 2010-07-26 01:17:07
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