好きになってもらうために
くなきみ

僕は彼が嫌いだった
僕はことあるごとに
彼のちょっとした悪口を言いふらしていた
その悪口は町中に広まって
しまいには町中の人間が
彼のことを嫌いになった
その悪口はどんどん酷くなって
僕が最初に言っていた悪口の
姿形を失っているほどだった
そしてとうとう彼は
その悪口に耐え切れなくなって
自殺してしまった
彼が死んだ途端
町中の人間は彼に同情しだした
彼がどれだけ素晴らしい人間だったかを語るようになった
そして悪口を言い出した犯人を探そうと
町中が躍起となった
僕は自分が犯人だと言い出すことなんて
とてもできなかった
確かに僕は彼が大嫌いだった
彼が死んだ今も彼のことを好きになれなかった
でも町中の人間は
死んだ今は彼のことが大好きになったみたいだった
町中の人間がこれだけ探し回っているから
遅かれ早かれ僕が犯人だと突き止めるんだろう
そして僕のことを酷く罵るに違いないんだ
そんなのとても耐えられそうにないよ
本当に耐えられなくなって
僕が自殺してしまえば
町中の人間は僕のことを同情し
好きになってくれるんだろうか
試してみてもいいかな?



自由詩 好きになってもらうために Copyright くなきみ 2010-07-25 12:35:59
notebook Home