うつつと夢の間を縫うバスに乗って
石川敬大
眠らないバスにのった
眠れないぼくは
あの野性化した雲といっしょに
あかるい夏の海辺をどこへむかっていたのだろう
写真でみただけの
マリアナ諸島の鮮やかなブルー/グリーンの繁茂に
錆ついて穴が開いた戦闘帽
朽ちるためだけにある折れた翼と操縦席
疲れはてて浅瀬に横倒しになった小艦艇に出入りする色鮮やかな熱帯魚
慰霊のためのマリア像
どれもが
ひとの属性である悲哀/悲惨
戦闘の消耗性/無意味を象徴している
*
トンネルをぬけて
ひときわ濃い潮のにおいを浴びた上着をぬいで
漁村に舫う船を横目に
いくつかの岬を丹念にまわったぼくらが
どこをどう通ってバス停までたどりついたのかたしかな記憶はない
時間には
時系列だけがあって
整合性は存在しないから
渡ってきた吊橋はたぶん霧のなかで壊れている
したたかに酩酊した
ゆうべの祭りの賑わいは
花火大会のまぼろしのように現実味がない
坂道に
さしかかる
九月の風のゆく手
路線バスの時刻表が現実からきえかかっているので
来るのか来ないのか
おぼつかなくて
うつつが夢のようで
ものみな死に絶えた夏の岬で
ぼくらは
やってくるはずのないバスを待っていた