義務と権利
1486 106

どうしても欲しい本があったから
適当な理由をつけて仕事を切り上げた
書店の前は長蛇の列ができていて
整理券は僕の少し後ろで配り終わった
それを確認すると並んでいた人達は一気に散らばっていった
僕は心の中でガッツポーズを取った

レジで代金を払い店を出ると
僕の少し後ろに並んでいた少年が
書店の前に立ち尽くしていた
おそらく同じ本が目当てだったんだろう
彼は書店から出てくる色々な人に声をかけていた
明日転校する好きな人のために
どうしてもその本が欲しいのだと言う
僕は紙袋を隠しながら
そそくさと店を後にした

誰もが幸せになる権利を持っているのに
どうして世界が満たされないのか分かる?
誰かを幸せにする義務を放棄しているからさ



通勤途中の満員電車に揺られていると
重そうな荷物を持った老人が乗ってきた
優先席は態度の悪いおじさんや
音楽を聴いてる学生で埋まっていた
僕は注意する勇気もなく
吊り革を握り締めるだけだった

誰もが幸せになる権利を持っているのに
どうして世界が満たされないのか分かる?
誰かを幸せにする義務を放棄しているからさ



駅を出ると昨日本屋にいた少年が
悲しそうな顔でベンチに座っていた
その手には欲しがっていた本
もしかしたら間に合わなかったのかな
僕は雑踏に埋もれていく少年を眺めながら
可哀想だなんて思ってしまったよ

誰もが幸せになる権利を持っているのに
どうして世界が満たされないのか分かる?
誰かを幸せにする義務を放棄しているからさ


自由詩 義務と権利 Copyright 1486 106 2010-07-20 21:46:39
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