野良猫のうた
恋月 ぴの
バケツをひっくり返したようなって言われても
ピンとくるわけじない
ひところ軒先で騒がしかったツバメの巣はいつの間にやら静かになっていて
育ち盛りと餌を催促してた雛たちは
ハーメルンの笛の音に誘われたのか南の国へと旅立っていた
月島界隈で見かける取壊し間近な廃屋
昭和という時代は確実に死に絶えていくように思え
それだからこそ野良猫は野良猫らしく
時間貸し駐車場の片隅で
孤独を気取り
そっと差し出された手のひらに
懐かしいぬくもりを感じ取れたとしても
自分の欲するのはそんなんじゃないとクルマの下へと姿を隠した
アスファルトは緩やかに溶けて
かけがえの無い大切なものと引き換えに季節は移り変わり
雲ひとつ無い青空は野良猫には不釣合いだからと
自ら身を引くことの美しくも滑稽な顛末に
寅さんにでもなった気分で口笛鳴らす
路地裏には朝顔に取られてしまいそうな釣瓶を今でも見かけることはできるし
そんなひとときの僥倖をもんじゃのへらで捏ねくれば
おせっかいなおばさんに手際の悪さを咎められたとしても
今年も感傷と悔いに満ちた鐘楼流しに
もくもくと沸き上がる入道雲と
夕闇恋しい夜店の縁台で
あと少しなのにもげてしまった形抜きはほろ苦くも「にゃあ」と鳴く