人差し指
Oz

夏のあの日、
僕らは海岸線を二人で歩いていた
僕はメソメソと泣いていて
彼女は導くように
僕の前を歩いていた
そして
僕らの手と手は
人差し指だけで繋がっていた

夏の夕陽を浴びていると
僕はあの日を思い出す
でも、
あれはいつの日の事だったか

隣では
娘が眠っている
海水浴の帰りの
電車の中で寝てしまったのだ

妻は
体調を崩し
入院している
夏休み中ということもあり
その間、
娘は祖父母の家に預けられていた
僕は仕事の合間を縫って
彼女に会いに行き、
そのまま
海水浴に出掛けたのだ

妻は
昔から体が弱い
免疫力が著しく弱く
こういった
夏の暑い日には
入院するまでに
衰弱してしまう

ただ
あの日の彼女は
珍しく調子がよく
僕らは二人で
江ノ島へ出掛けた
展望台から
夕陽を眺め
深呼吸をした
二人共言葉は発さず
微睡んでいた
そして、
僕は泣き出してしまった

「パパ大丈夫?」

娘が目を覚まし
声を掛けてきた
どうやら
怪訝な顔をしていたようだ

「どこか痛いの?」

どこも痛くないよ
そう言って頭を撫でた
娘は
「痛いの痛いの飛んでけ」
と祖母から教わった
昔ながらのマジナイを唱えた

彼女は何も言わずに
僕を導いた
僕は彼女の事が好きだった
好きで好きでしょうがなかった
僕は彼女を力強く抱きたかった
ただ、
この腕はあまりに脆弱で
逆に
導かれてしまった

娘をまた祖父母の家に預け
別れるときに
何があっても
妻のことを守ることを約束した
すると娘は
一人でする気にならないでと
私もいるんだからと

僕は
あの日決心した
何があってもこの繋がりだけは
守ると
僕の腕は脆弱かもしれない
ただコレだけは守らなくてはと
そう、
何があっても

僕は彼女の事が好きなのだ


自由詩 人差し指 Copyright Oz 2010-07-19 10:51:19
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