salco

 夜想曲

おお夜よ、おお夜よ
人は眠りを貪りながら死は恐れ
瞼を閉じて覆い被さる闇を追い出し
より暗い臓物の中へと逃げ込んで
しかし閉所恐怖をも克服する為
そこにマッチの軸で
天国の神殿を作るそうだよ

をを夜よ、ヲヲ夜ヨ
発狂の勧誘者と満開の桜の亡霊よ
彼等がドアや窓を遠慮がちに叩く時、
けれど執拗な連打は止まない
足の無い風は優しく、顔の無い闇は甘い
黒い丘のシルエット 
しだれ柳が女の声で唄い出す

おほ夜よ、大いなる夜よ
お前と私が野に踊る 1つとなって
ターンの間に間に笑いが洩れる
何もかもが余りに静かで墓場のようだ
踊る踊るお前と私 
月が4回笑う
腕も蒼い 目だけ映え、血も青い



 午前2時

触れようとすると
指の間に溶けるように
するりと遠ざかり逃れ出る
その身体の
肉のしっとりした曲線や
乳房の柔らかな重み
その優しい陰毛でさえも

闇の中で
ちらちらと踊る光の中で
私のすぐ傍らに熱い呼吸をして
眠るようだのに
それは囁くようであり、その甘さから
感じられる想いは
ほんの1週間前と不変であるようだのに

抱き寄せようと
少しでも手を伸ばせば
するりと遠退き、逃げ去る
その身体の
肉のしっとりした曲線や
(その総てを私は今でも熟知しているのに)
乳房の柔らかな重み
(私の掌と完璧な対を成す)
その優しい陰毛でさえも



 未明に在るもの

放たれた犬達の鳴き声が
遥かな野原で駆け回る
午前4時
夜の巨大なマンホールを筒抜けて
けれど犬達は北から南西へ駆け抜けた
望遠鏡を耳に当てても、
もう聞こえない
朝が白い薄衣を羽織って
眠れる草花を
濡らす迄にはまだ長い

星々の天蓋の下に夢は漂う
無数の規則的な寝息の間に間
伝説も
か黒い丘の足許にうずくまっている
子供達は、この時間は出払っている
みんなどこかで遊んでいるのだ
けれどもう何百年も若者達は眠っている
どこかの花のその下の、誰も知らない土の中
生まれなかった胎児のように
母の腕に抱かれもせずに

まだ明けぬか。
まだ明けぬぞよ、
東の扉はまだ開かぬぞよ。



自由詩Copyright salco 2010-07-19 02:57:42
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