かくれんぼ
オイタル

濡れた藪の陰には
ヤスコちゃんがもう膝を抱えている
色の変わった大きな樽の中は
トシユキの指定席だ
横木の折れた狭い入り口に
クモの巣は長くぶら下がって
すでにだれかが小さな手足の跡を
残している気配だ

ぼくたちのかくれんぼは
青空を這いのぼる入道雲に見られていて
広場の端で身をねじる松の大木が
怪しい咳払いをやめない

七月の空
消えていく飛行機雲

やがて
襟ぐりの広いワンピースの彼女は
自動販売機の陰から出てきて
もう行ってしまうの?
と言った
ぼくは彼女の肩越しに
遠い山脈の
残雪を見止める
かくれんぼをやめないぼくの
足もとを黙って
過ぎていくものがある

もう終わりだ
さあ帰ろう
雨にぬれた草の陰のヤスコちゃんは
もうすっかり小さな膝を濡らして
正しい寝息を重ねているじゃないか
言うことを聞かない子は
もうどこにもいない
ゆっくりと一日が終わる
今日の一日が


自由詩 かくれんぼ Copyright オイタル 2010-07-18 21:21:49
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