布晒
楽恵

         



経糸の波が島に打ち寄せ
砕けた珊瑚の欠片が筬の羽の隙間を通る  
浜は白く織り上げられ
降っては降りてくる日射に
転がる岩岩は奪われた影を慕っていたが
素足をあらわにした浜降り
ざぶざぶと機織娘たちは海に入っていく
豊かな黒髪の頭上に
これから首里の王府に納める御用布を載せて 

御布を海水で洗い清め
色付きや色出しを良くしてから
天日に干して晒すと
極上の御布が出来上がる

太陽は大きな目をみ開いて
洗う娘たちをのぞき込もうとする

海面に浮かべてやると
御布は嬉嬉として泳ぎ始める
娘たちの労働歌を聞きながら
時おり囃子ことばを返してやる
潮水を掛けて
繰り返し繰り返し手で撫で付けて
御布の色艶は美しく
布丈も布巾もつりあっている

けれど娘たちの手元に残る布は一枚もない
布は首里王府から課された人頭税の
貢納品だから

手元に残る布は一枚もなかったが
渦巻く太陽の目のなかで
浜辺で布を晒す娘たちの姿は
永遠に焼きついて離れない




*沖縄県八重山諸島に伝わる古典民謡『布晒節』より







自由詩 布晒 Copyright 楽恵 2010-07-16 10:15:58
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