常夏常世 
楽恵

             



淡い夢をみる夜がある
夏休み庭に植えたブーゲンビリアに
いつの間にか背丈を追い越され
生い茂る葉がどれだけ季節を重ねても
記憶は夏しか残らなかった
二人乗りの自転車が郵便ポストを通り過ぎ
南の海峡から台風がやって来る夜明け前
手を伸ばしても
結局は畑の蕃瓜樹の赤い実を採りそこねた
家に若夏が生まれてすぐ
島を制圧する灼熱が
蝉と共に哭いていた
声に眩暈がして
成長したブーゲンビリアの木蔭にひととき身を横たえ
沈んだ睡魔だけ淡かった夢を思い出そうとする
あの日確かに約束されたと胸に刻んだことも
今はもう憶えていない
午睡の夢だとつゆほど知らず
もしくは陽炎の
あれも嘘だったのかもしれない
深夜に天気予報が終わったあとも
正体を知らされるまで眠らずに待っている
けれどいつの間にかまた
昼の激しい戦闘による疲れと
夜に降る暗闇の深さに抗えず
淡い日々の夢を思い出そうと
記憶は夏に落ちていく






自由詩 常夏常世  Copyright 楽恵 2010-07-16 10:13:55
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