海のあなた
石瀬琳々
あなたのくちびるから海がこぼれる
塩からい水が胸を濡らすから
わたしは溺れないように息をする
そっと息をする
空の高みが恋しいと指先をのばし
両手を広げてみるけれど
あなたの海が追いかけてきて
わたしの心は黄昏になる
そして星がまたひとつ燃えてしまう
胸に焼きつけられてしまう、から
どうか鴎になって飛んでいく前に
口移しで海をわたしにください
潮の香りが満ちてきて
小舟のように揺れるでしょう
どこまでも流されて
あなたがすべて海になるまで
海が残らずあなたになるまで
それからわたしは海を抱いて
わたしは海を呑みこんで
わたしは海を身ごもったまま
いいえ 本当は翼なんていらないのです
あなたの膝枕でこうして
いつか魚になって暗闇で眠るように
ずっとそうしていられたら、と