幸福の食卓
坂井ハナ
そう言って 羽を伸ばしていなかったというように
ぼくに伝えようとしているのかな
料理教室で素敵な魅力の誰かに会ったら
きみが幸福な事故に遭ったら
僕は何事も耐えられません
キッチンって とても秘められたものだというのに
生徒になった男たちがそれを見る
謎を解き明かす視線に晒されていると気付いた
きみが幸福な事故に遭ったら
僕は真綿の妄想をしてしまいます
きみの ミートソースが
肉じゃがが タラモサラダが
何の隠し味も無しに
ただ作られると言えるのかい
魅力だって 跳ね飛ばされる僕が嫌というのでなく
ぼく以上とか以下ではなくて
ひとそれぞれ違う得意と輝きのどれかを目にして
きみが幸福な事故に遭ったら
僕に隠し事をして下さい
遭ったら終わりと知ってる僕はずいぶんと卑怯者で
言い募って告白して 理解をもらって誓わせて
しさえすれば暴力的に僕の中の男性性は鎮座するというのに
きみの ミートソースは
肉じゃがは タラモサラダは
僕のものであると
幾度ほかの男に捧げようと
真実に僕のものであると
我が家の食卓で証明してくれよ
団欒を求む