「従順な正解」のためのデッサン
草野大悟
それは、うす紫色に、妖しく 輝く。
静かな夜でなくてはならない。砂糖と塩とに出会うのは。
シーン と、音のする満月の夜なら、なおさらいい。俺たちが、狼そのものになる満月の夜、
砂糖と塩は
白い皿に盛られて
俺たちの前に現れるのだ。
それは、幻かもしれない。しかし、確かに、真っ白い磁器に 真っ白い砂糖と塩とが盛られて、生け贄のように俺たちの前に出現するのだ。
俺は、知っている。どちらの皿が砂糖で、どちらの皿が塩かなど、とうに。
それは、うす紫色に輝くことを、秘やかなヒントとして、ここに提示しておこう。
白いテーブルに ふたつの白い皿。それらの中に あくまでも白い二つの結晶。
もう一度言おう。
砂糖か塩かを見極めるときは、満月の夜でなければならない。
蟻を走らせるでもない
舐めてみるでもない
外形から判別するでもない
それでは おもしろくないのだ。形而下学的にも、形而上学的にも、二つの皿は、証明を
拒否している。
もう いいだろう。そろそろ 答えをだそう。
アメリカの純然属国 日本 で 教育されてきたあなたたちが大好きな、従順という名の
「正解」を。
紫外線を当てるんだ。静かに、ひんやりと。紫外線を当てるんだ、満月の夜に。
ふたつの皿のひとつは、あくまで白く、そして残りのひとつは、うす紫色に妖しく輝くのだ。
それが砂糖だ。
あなたたちが望む「従順な正解」のためのデッサンだ。