『過夏幻影』 より抜粋 (二十句)
ま のすけ

 あめんばうの生み出す水の陰ひかり

 弥陀堂の板目をそむく素足かな

 だだちゃ豆和紙を透かして寄る灯かな

 風舐める火蛾ひがなき夜の虫媒花ちゅうばいか

 舟べりを鵜匠の叩く木曽の夜

 擬薬プラセボや病棟に夏けてゆく

 死神の翳り一弁ゆり真白

 大仏の短かき夜を百語る

 幻影の打たるる水と消失す

 生も死も陰ひたすらに炎天下

 端居はしゐして今また一歩死を背く

 醤香ひしほかやぐら艶けき晩夏光

 麻紐を巻き取る指輪秋に入る

 追悼の風六十年の赤とんぼ

 流灯ぽつん水の匂ひの遠ざかる

 モルタルのはげかかるしろすでの秋

 出囃子の漏れ来るビルや鰯雲

 ひは色にひは鳴き暮れて胸に風

 寂寥の風ととのへて秋茜アキアカネ

 獣道けものみち地図に探して九月入る





    初出は、五年くらい前ですかね。
    ある俳句の賞に提出した作品からの抜粋です。
    現フォ用に、読み易くするため、
    「拗音の表記」と「ルビ」を一部正しました。


俳句 『過夏幻影』 より抜粋 (二十句) Copyright ま のすけ 2010-07-10 19:53:00
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