夏を蒸らす、わたしの
あ。
昨夜の雨でまだ湿っているアスファルトは
打って変わった今朝の強い日差しを吸い込み
ジーンズに包まれた足元からじわじわとあたためる
今朝は目玉焼きを二つ作った
フライパンを火にかけて卵を落として
ほんの少し水を入れて弱火でふたをする
たちまち生まれた蒸気の中で卵は
ぷくぷくと軽く揺れる
そんなことを、思い出す
今、わたしは蒸らされている
際限のないふたに閉じ込められて
体中に熱を通しながら住宅街を歩く
抜けるとぶち当たるのは旧街道と呼ばれる細い道で
側を走る国道の渋滞を免れようとする車が通るが
それも時折だ
信号もない小さな横断歩道を渡ると
すぐに駅が見えてくる
その頃には、わたしの身体は水滴でいっぱいになる
足元に落ちているのは、きっと紫陽花の花びらだ
昨夜の雨に打たれて
その上多くの通行人に踏みつけられたのだろう
アスファルトに溶け込もうとしてるかのように
薄くなってべっとりと張り付いている
日差しはぐんぐんと強くなっている
紫陽花よ
季節の欠片よ
おまえもじきに、蒸らされるだろう
夏の日々に、鮮やかな気体となれ