夏を蒸らす、わたしの
あ。

昨夜の雨でまだ湿っているアスファルトは
打って変わった今朝の強い日差しを吸い込み
ジーンズに包まれた足元からじわじわとあたためる


今朝は目玉焼きを二つ作った
フライパンを火にかけて卵を落として
ほんの少し水を入れて弱火でふたをする
たちまち生まれた蒸気の中で卵は
ぷくぷくと軽く揺れる
そんなことを、思い出す


今、わたしは蒸らされている
際限のないふたに閉じ込められて


体中に熱を通しながら住宅街を歩く
抜けるとぶち当たるのは旧街道と呼ばれる細い道で
側を走る国道の渋滞を免れようとする車が通るが
それも時折だ
信号もない小さな横断歩道を渡ると
すぐに駅が見えてくる
その頃には、わたしの身体は水滴でいっぱいになる


足元に落ちているのは、きっと紫陽花の花びらだ
昨夜の雨に打たれて
その上多くの通行人に踏みつけられたのだろう
アスファルトに溶け込もうとしてるかのように
薄くなってべっとりと張り付いている


日差しはぐんぐんと強くなっている
紫陽花よ
季節の欠片よ


おまえもじきに、蒸らされるだろう
夏の日々に、鮮やかな気体となれ



自由詩 夏を蒸らす、わたしの Copyright あ。 2010-07-08 19:39:20
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