迷羊
岡村明子

書く端から
言葉がもろい陶器になって
ぱりんぱりん割れていくので
どんなに壁にしがみついても
もう書けないのです
コンクリートは湿ったにおい
かび臭い指先から滴るインクでは記号にならない
嵐のように桜が過ぎ
壁じゅうに花びらを撒き散らしたあとで
私は何を書けたというのでしょうか
ものすごい速さで移動する雲の群れの中で
どういうわけか迷ってしまった一片の雲の気持ちです



自由詩 迷羊 Copyright 岡村明子 2003-10-09 01:13:57
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