七夕
佐野権太

娘たちは
もう眠ってしまった
何も書かれていない短冊がひとつ
テーブルに置かれている

なあ、父さんは
こってり疲れてしまっているから
願いごとなんて
ひとつも浮かばないんだ

静かに網戸を引くと
よりかかっていた笹の葉が
しゃらしゃら
心地のよい音色にひるがえる
おれんじの短冊
(まじしゃんになれますように

縁側に座り
缶ビールのプルトップを引く
湿った風に重心を失っている
みずいろの短冊
(おとうさんがはやくかえってきますように

雲の多い空の隙間
星を探しながら
ひとり
風のゆくえを探している
 
 
 
 
 


自由詩 七夕 Copyright 佐野権太 2010-07-08 11:21:14
notebook Home 戻る