ハンバーグをロースで。
キリギリ

ビニル袋にいれたコッペパンを流し台で水に浸している不細工は
浸しているコペパンを右手の平で軽く押し左手にはペンを持ち
その感触の変化を言語化している夜は暗いが光は明るい羽根を持つ虫が
寄ってきている寄ってきているけれど太陽はとても遠くにあるから
人は照らされるがままに身を焦がす焼けた手紙は盲目の母の為に燃や
されている家からほど近い電話ボックスに置かれていても不思議では
ない少女の死体を犬が噛んでいる犬が噛んでいる少女が笑っているカードを
ATMに差し込み二千円を引き出しスーパーでヘルシーと書かれた魚類を買う
不細工は洗面所に良く似合う行為を幾つか済ませた後、上着を脱ぎ右腕の
骨を自分の左手で折れるわけがない豚の社会にも礼儀はあるように人の
社会も逆恨みがあったり立ちんぼで生計を立てる女がいたり力強く「うん」と
頷いたりしてそれぞれの暮らしを営んでいる空と海とを掻き混ぜて涙を降らす
夕暮れに不細工は人に限らず如何なる肉も切ったことのないカッターで
慎重に爪を切っているまるで「これが俺の個性だ」とでも言いたげに伸びた
爪を切っている身重の女が坂道を転がっていくシーンバターを挟んだサンド
イッチを口いっぱいに頬張る幼子のシーンストーブで加熱したプラスチック
容器が変形し茶色いタレが流れ出すシーン瓦礫の下敷きになった犬状の固体を
撫でる女性レポーターのシーンくるくる回る椅子に座りくるくる回りながら
性的に昂っていくシーン三塁打のシーン胴体着陸のシーンバスジャックの
シーンキリストまみれの教会で眼窩に半熟ゆで卵を嵌め込むシーンひな鳥の
ように口をパクパク開く黒い子供を思い描きながら募金箱に一円玉を落とす
シーン風船に棒アイスをつけて春の空に放つシーン換気扇に鳩が絡まるシーン
大好きなあの映画のワンシーンなどが不細工の頭に浮かんでは消えている。


自由詩 ハンバーグをロースで。 Copyright キリギリ 2010-07-07 19:50:04
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