裸足の笑顔
綾瀬たかし

 
 
 
【裸足の笑顔】



 瓦礫の上を裸足で歩きながら
 陽が暮れるまで食べ物を探し回っている子供たちがいた。
 今にも崩れそうなほど傾いた家屋の
 ドア代わりのカーテンから顔を覗かせる子供たちがいた。
 爆音を轟かせ飛び去る戦闘機を
 鳥でも捕まえようと無邪気に追い駆ける子供たちがいた。
 地雷を踏んだせいで手足を失くし
 それでも生まれたことを悔やまず生きる子供たちがいた。

 今はまだ瞳に映る景色だけが世界の全てだと信じている
 本当の平和を知らない子供たちが
 こちらの視線に向ける表情はいつも笑顔だ。

 裕福だとか、貧困だとか、肌の色が違うとか
 正義だとか、政権だとか、信じる神が違うとか
 子供たちの世界には何ひとつ無かったから。

 やがて大人になり世界の真実を知った時
 今の笑顔は忘れてしまうのだろうか
 いつか大人になり世界を憎むようになった時
 その手には武器が握られるのだろうか
 そして大人になり人を殺めることが罪ではなくなった時
 子供たちは天使じゃなくなるのだろうか

 こうしている今も、あの笑顔を向けてくれた子供たちは
 食べ物を探して瓦礫の上を裸足で歩き
 不衛生な家の中で母親の愛に抱かれ
 戦闘機を捕まえようと追い駆け
 片足で歩く練習をしている。
 銃声を響かせて醜い争いを繰り広げる世界と隣り合う
 彼らだけのとても小さな平和の中で。
 
 
 


自由詩 裸足の笑顔 Copyright 綾瀬たかし 2010-07-07 00:14:18
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