裸足の笑顔
綾瀬たかし
【裸足の笑顔】
瓦礫の上を裸足で歩きながら
陽が暮れるまで食べ物を探し回っている子供たちがいた。
今にも崩れそうなほど傾いた家屋の
ドア代わりのカーテンから顔を覗かせる子供たちがいた。
爆音を轟かせ飛び去る戦闘機を
鳥でも捕まえようと無邪気に追い駆ける子供たちがいた。
地雷を踏んだせいで手足を失くし
それでも生まれたことを悔やまず生きる子供たちがいた。
今はまだ瞳に映る景色だけが世界の全てだと信じている
本当の平和を知らない子供たちが
こちらの視線に向ける表情はいつも笑顔だ。
裕福だとか、貧困だとか、肌の色が違うとか
正義だとか、政権だとか、信じる神が違うとか
子供たちの世界には何ひとつ無かったから。
やがて大人になり世界の真実を知った時
今の笑顔は忘れてしまうのだろうか
いつか大人になり世界を憎むようになった時
その手には武器が握られるのだろうか
そして大人になり人を殺めることが罪ではなくなった時
子供たちは天使じゃなくなるのだろうか
こうしている今も、あの笑顔を向けてくれた子供たちは
食べ物を探して瓦礫の上を裸足で歩き
不衛生な家の中で母親の愛に抱かれ
戦闘機を捕まえようと追い駆け
片足で歩く練習をしている。
銃声を響かせて醜い争いを繰り広げる世界と隣り合う
彼らだけのとても小さな平和の中で。