音のない洞窟
吉岡ペペロ
シンゴは大型ショッピングセンターの駐車場に車をとめてDVDでオナニーをした
ゴルフの打ちっぱなしにいくと家族には嘘をついて送りだされてここにいた
悲しくもなかった
みじめでもなかった
シンゴは謳歌さえ感じていた
駐車場のすみにはじぶんとおなじ連中がいる
ベンツはいなかったけれどフーガぐらいならいた
それがシンゴだった
いちどお客さんとその話になった
やすみの日?大型ショッピングセンターの駐車場にいるよ、DVDを観にな、
それ、わかります、
シンゴが屈託なく言うと
あそこは重要だよ、とにこりともせずに返してきた
あそこは洞窟のようだ
コンクリートがむき出しだからだろうか
うす暗いからだろうか
この静謐なやすらぎはむかし人類がそこで暮らした記憶なのかも知れない
仕事で日本中や世界をまわるけれど
あ、ここなら、オナニーできるな、
とか思うことがある
そんなとき日本の大型ショッピングセンターの駐車場が映像としては重なる
イメージとしては洞窟だった
洞窟とはしずかにせつなくオナニーできるところであればよかった
そして馬鹿な話だけれどシンゴはそこにいつも別れた女をさがすようだった
ティッシュでそれをこぼさぬように拭き取り画面をテレビに切り替えた
休みの日はやくに買い物を終えた夫婦が車に乗り込むのを見つめながらシンゴは胸に冷っこい痛みを感じていた
そんな嫉妬という感情を振り回したくて
中学生かよ、オレ三十七なんですけど、
そうひとりごちてヤスダヨシミのことを思い出していた
それはきょうもう数千回めのような気がした
テレビでは深刻な土砂災害をやっていた
それが弛緩したあたまを引き締めてくれていた
日本は梅雨だった
あ、またいまヨシミのことを思った、
シンゴはじっさい孤独ではない
孤独という関係性の存在を信じていなかった
そとは雨が降っていた
シンゴは残骸をいれたコンビニの袋をごみ箱に捨てにでた
きゅるきゅると音たててRV車がはいってきた
駐車場内のみじかい横断歩道を小走りでわたりごみ箱につっこんだ
そしてゆっくりとフーガに戻りながらそとに雨の音をさがしていた
音がなかった
音とは切り離されていた
それが洞窟の特長のひとつかも知れなかった
もしこの世に孤独というものが存在するならば、・・・・
でも、こんなの、生きてることには関係ねえな、
思考をストップさせてシンゴはフーガに乗り込んだ
あ、買い物すんの忘れてた!
すぐさまエンジンをきると気味がわるいほどの無音が訪れた
そしてシンゴはそこにぽつねんと浮かんでじぶんのことをはじめて孤独だと思った