ルシア811
高梁サトル


旅群の影に腰掛けて
静かにナツメを噛んでいた
夜露に濡れた
クサカゲロウの卵塊が
孵化した途端
光に溶けて

満ち欠ける月が映る
瞳を抉り出し
過去を刻んだ証人として
現のように醒める
あなたの手のひらへ

ファティマのヴェールに
隠れて怯えていた
あの海の水
すべて使っても洗い流せない
血を流し続ける無数の柩を
蒼白く燃える
シリウスだけが
仄かに
照らして

儚い
なぐさめ
誰も見たことがない
 
(ゆめ)

長い長い
息継ぎさえ忘れる
その狭間で
肥沃な大地を求めて流離う
足元から美しく伸びたヘナ模様が
地平の果ての森に消えてゆく

ターコイズブルーの空から
降り注ぐ
熱が
涸れ谷に浸み込んで
織り上げるアラベスクの
一糸のような
生命の



自由詩 ルシア811 Copyright 高梁サトル 2010-07-05 22:20:26縦
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