ランドリークルーズ
メチターチェリ

うだら
     うだら

無人のコインランドリーの中
一台のうずまき式洗濯機が僅かばかりの汚れものを乗せて夜の住宅街アクセルを踏んだ
5分間
区間内の街角を回遊するツアーバスのような
あるいは
長閑が売りの内海を奔る遊覧船に乗り込んだつもりになって
羽虫が飛び交う蛍光灯を甲板から眺める太陽に見立てた私が
無為な日常を切り裂く願いを託したのかもしれない

沖に出て大海へ抜けた愛妻号が海を切り
巻き込んだ衣類ごと渦旋の水波を無限に立てて進もうと
やがて座礁したリリパット島の小人によって
大きくなった私の気持ちは縛り捕えられてしまうだろう
10分間
快調に電動するらしいパルセーターの振動音はうつろに響き
船を漕ぎ始めている私は それでも機械的におにぎりを咀嚼した

それにしても居並ぶ洗濯機はどう座り直しても心地が悪く
30秒ごとにケツの重心を置き替えないとしびれ疲れてしまいそうだ
パイプ椅子くらい置いていてほしかった……

     ***

遠くで雨の音がしている

気がつくと航海を終えた衣服が水揚げのときを待っていた
揉まれて摺りあわされて体中の水分をねじり絞られたボロ雑巾のように疲弊しきった衣服たちをそっと抱きかかえると 落とさないようにエコバッグに寝かせた
私自身も身体の節々が錆びついたように重かった
傘が無いから走って家まで帰らなければいけない

極力はシワを伸ばして
部屋に張ったビニールテープに洗濯物を吊るしていく
朝まで私の部屋は生乾いた合成繊維の淫靡な匂いで満たされることだろう
着古した部屋履きの放つ人工的な臭気にどこか懐かしさすら覚えるはずだ
濡れた着衣を改めて洗濯カゴに投げた
セクシャルで完結した夜が夢見られている


自由詩 ランドリークルーズ Copyright メチターチェリ 2010-07-05 02:19:03
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