夏空の下で夢をみる
かんな

約束の場所を忘れてしまったのだと
忘却をたぐりよせる日々が続いている
わたしも、あなたも、
同じとはいえない、似通った部分を共有しているだけで
帰省本能さえも持ち合わせていなくて
ひとつの寄り添う居場所を持つこともしなかった


やさしさの根源をさかのぼったときに
あなたを見つけられないと悲しむのはエゴだろうか
さびしさの群れを飼ってしまうひとは
孤独ということばをしきりにコップに注いでは飲む
暑い夏の逃げ水のような存在は
潤いを与えながら、わたしに渇きを覚えさせる


指切りはやさしい頬への接吻のようで
あいまいな恋とも愛とも呼べない目的地には
いつか辿り着けると、この南風にのせて花束を贈る
あたたかいほうへ
触れることの叶わなかった指先には
どれほどのあたたかさを持ってしてもぬくもりは灯らないけれど


日没という現象も、深夜という事象も
わたしと、あなたを、ゆいいつ安心させた
語ることばは溢れるほどポットにあたたまっていて
マグカップに注いでは飲み干しあった
そういうただの思い出と化した記憶を抱えることは
夜空をゆっくり駆ける月を追い抜いてしまうことのようだった


あなたとわたしが、はじめて何らかの大切さを抱く
そういう冗談を幾度も重ねていくと
現実はあきらかに薄らいで色を無くしていく
帰ってしまいたい
日々は示しあわせたようにあなたとわたしをすれ違わせる


同じ空を見上げ
同じ月を見つめて
同じ空気の中で生き
同じだけの歳月を過ごす
同じということばは日々とともに変化して
共有したという曖昧な触れ合いの記憶に変わってゆく


だからただ夢をみている


(夏空の下で交わしたあの約束が
(何度もめぐる季節の中で
(いつか芽吹いて
(あたたかな向日葵の花が
(一面に咲き乱れる




自由詩 夏空の下で夢をみる Copyright かんな 2010-07-04 04:51:04
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