道の記憶
たもつ

 
 
道の記憶
識別された日常の中を
人は歩く
そして
人は脆い
ぐにゃりと背骨の曲がった自転車が
無灯火のまま夜の街を走る
やがて洋品店の前でひとつの海になる
街中の甲殻類が次々と入って行く
いつしか海は自身を閉じてしまう
本当に失われたものは
何の痕跡も残さない
あちこちに落ちていた名前を
ボイラー技師が拾い集めて帰宅する
昨日の惣菜を一口食べて
吐き出す
既に腐っていたのだ
 
 


自由詩 道の記憶 Copyright たもつ 2010-07-01 20:42:04
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