スピリット オブ ゴースト
ホロウ・シカエルボク
やたらに愛を歌ったりするやつになりたくない
やたらに夢を語ったりするやつになりたくない
やたらにフェバリッツを吹聴するやつになりたくない
やたらに周りに当たり散らすやつなんかになりたくない
人前で自作の詩を朗読する
ナルシストにはなりたくない
人前で力こぶを見せびらかす
マッチョマンにはなりたくない
バラエティー・ショーを見て「ヤラセだ」なんて言うことが
シニカルだと思っているやつなんかになりたくない
ロック・バンドの初期の二枚のアルバムだけを賛美する
ロック・ファンなんかになりたくない
ピッチとキーだけを気にする
シンガーなんかになりたくない
昇給と福利厚生ばかりを気にする
社会人なんかになりたくない
三十年かけて返済するローンで
そこそこの家なんか建てたくはない
韻律と行間と文体ばかり気にする
詩人なんかになりたくはない
ヘッド・バンキングばかりが上手な
ハード・ロッカーなんかになりたくはない
巧みなデッサン以外にはなにもない
漫画家なんかになりたくはない
カラットでしか愛を表現出来ない
男なんかになりたくはない
シャネルだけでしか愛を受け取れない
女なんかになりたくはない
不遇な時代を誰かのせいにするような毎日だけは送りたくない
他人にケチをつけることでしか自分の価値を表現出来ない人間なんかになりたくはない
俺は
ゴースト・タウンが好きだ
ゴースト・タウンに行ったら
二度と出てこれない気がする
ゴースト・タウンの一番しっくりくる部屋で
夜明けや日暮れを眺めて暮らす
ただぼんやりと数値を変える
成長と退行だけがそこにはある
時々は雷に打たれたみたいに
すごい詩がつらつらと思い浮かぶこともあるかもしれない
そしたら一番近い街に出て
読ませてくれそうな店を探すのさ
ついでに飲ませてくれそうなやつも
ひとしきり楽しんだらゴースト・タウンの
一番しっくりくる部屋に戻って
夜が明けたり日が暮れたりするのを
ただぼんやりと眺めて暮らす
穏やかな成長と退行だけがそこにはある
歌を思いついたら口ずさんでみる
約束が出来そうなやつとしか
約束は
しない