思い出す雨雲の朧月
板谷みきょう
あたし一生、結婚なんてしないわ。
三日月に乗って夜を旅する
風の冷たさ温かさ
満月なんかじゃダメなのさ
10円玉99枚を用意して
告白の為にボクは
電話ボックスを探してた
あの娘が申し出を断るはずがない
「受け容れられなければ
電話に出ないで下さい。」
そう恋文に
電話をする日時を添えて
書き記しておいたのは
根拠のない自信と
裏付けのない信念が
揺らぐことが無かったからだ
そして約束の閏年の夜
21時に電話を掛けた
彼女の母親が電話口に出た
今、娘は出掛けていて家には居ないのよ。
月夜の駆け落ちに夢破れ
ポケットには98枚の10円玉が
重い気分をいっそう重くしていた
四半世紀以上前のことだ