さよならバンビツアー
さわ田マヨネ

思い出作りでもしましょうと
お気に入りの友達と
おばばばかりのバスに乗り
思い出話に花を咲かせ
温泉地へ着けば
湧いた温泉を
その地のおばばが湯もみしていて
おばばにもまれた湯につかり
気持ちいいね
もまれた湯にもまれているようだね
むしろもみ湯だと言い
もみ湯からあがると
テーブルの上には食事が並べられており
冷めていて薄味に感じられるお蕎麦や小鉢を食べながら
しゅわっとするすっぱいりんごジュースのようなものになんだこれといった表情をすると
友達からおそむらくお酒だと小声で聞かされ
未成年の僕はその日一番気分が高揚した

帰りの道中
すこしぐったりしてしまったのは
きっと長距離のバス移動に慣れていないだけなのに
わいわいと活気づくおばばたちをみていると
僕たちの身体は普段からもまれなれていないため
もみ湯につかることで逆に疲れてしまったのだと感じられた
途切れることなく続くおばばたちの会話に包まれながら
霧の立ち上るくねくねとした山道に揺られていると
どんぶらこともみ湯をするおばばたちがオーバーラップしてきて
あのぬくかった薄味のお吸い物の出汁は
また別のおばばがとったものだろうかとぼんやりおもいうかべられ
そのうちおばばがもんだ湯にもまれるってなんというか二度手間だね
なんて言葉がうかび
ひと笑いとれそうな気もしたが
場も場なのか
なぜだか絶対に口にだせなかった

僕たちの住む街にバスが着き
駅で友達とさようならをしたとき
まるで意味のない違和感を憶えた
近所まで向かうバスに乗ると
楽しかったと感じた
今も温泉は湧き
おばばたちは湯もみして
ありがとうバンビツアーなんて思った
また別のおばばとバスに乗りあわせていることに気づいた
のどかな帰り道だった
はじめてお気に入りの友達をなつかしくおもった
まだわかぞうの僕としては
バンビツアーに行かせてくれたお母さんには
たくさんの会話を交わすスキルが身につく頃には
肩でももんであげようと
とりあえず思っている


自由詩 さよならバンビツアー Copyright さわ田マヨネ 2010-06-29 21:11:38
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