予後
古月
凪に
立葵の首がからからと回る
細くながい指のさき
防空頭巾はしろい黒い
僕は何の役にも立たない
手旗信号の練習をする
三味線引きの猫がぴん、と鳴いて
けさがた道になっていた
手紙は開けずに焼いてしまう
夢の女が振り返って
白雲に午後の青果は青い
見たことのない言葉を話す
缶詰の蜜柑は流れていた
始めからそうだったのか
それとも早すぎたのかは知らない
月のない夜は戦没者追悼集会に
出られない家いえが集まって
話せない話ばかりを話す
祖父の左肩にはまだ生きている
戦争がいまもしずかに殺し
夜な夜な天袋から降りてくる
女のことを誰も見ていない
どこかしら母に似ていたけれど
よく見れば宛名のない封書だった
赤い太陽に曝されれば
赤い色から抜けていく
長い長い行軍の果ての果て
言葉を殺した父を殺した言葉が
黒墨の下で死んでいる