予後
古月

凪に
立葵の首がからからと回る
細くながい指のさき
防空頭巾はしろい黒い
僕は何の役にも立たない
手旗信号の練習をする

三味線引きの猫がぴん、と鳴いて
けさがた道になっていた
手紙は開けずに焼いてしまう
夢の女が振り返って
白雲に午後の青果は青い


見たことのない言葉を話す
缶詰の蜜柑は流れていた
始めからそうだったのか
それとも早すぎたのかは知らない

月のない夜は戦没者追悼集会に
出られない家いえが集まって
話せない話ばかりを話す
祖父の左肩にはまだ生きている
戦争がいまもしずかに殺し


夜な夜な天袋から降りてくる
女のことを誰も見ていない
どこかしら母に似ていたけれど
よく見れば宛名のない封書だった

赤い太陽に曝されれば
赤い色から抜けていく
長い長い行軍の果ての果て
言葉を殺した父を殺した言葉が
黒墨の下で死んでいる


自由詩 予後 Copyright 古月 2010-06-28 20:00:52
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