落鳥
水川史生

落ちてくる、
展開されるいくつもにさよなら
穿たれる風景にひとかけらの曇り 風花
散ってはまたくゆらされるのでしょう
ティーヴィーで嘆く人の流れに
真っ逆様に落ちてくる鳥の影が
その空を暗く眩くするでしょう

もうそのままで好いんだから、
二つ分の呼吸 ガラスの体温 溢れてくる吐息
伏せられる額に遭わされる点灯
何にもなかったでしょう 甘さにかき消されている

(憂鬱にないた)
(落ちたのはあの鳥の)
(暮れてはもがくこともせずに)
(ないた)

(ないた)

僅かに収束されるのなら戻ることのないように
反転するその遠さの中でてのひら 鳥が落ちる風景
黙ったままでいる十字路に立ちつくした影の 家をなくす
向かい合うそこに誰もいない、
弾かれる黒白に重なっていく音階を
確かに耳にしていた最後がゆっくりと 瞼を開く

呼吸を苦しくして、
指先が掠らない そんな残照に満ちて埋もれて
ずっと方程式を解いている
お仕舞いだったと繰り返している

(誰の鼓動もとまってしまった)
(ねじと歯車が足りない)
(だから落下する、)
(黒く、点に変わる、ないた)

(ないた)

レターボックスを埋める紙飛行機 白 こぼれる、
息をとめて結末を待つ
かなしみが震えないように
盲目に標 コントラストの調和 雨音
聞こえない音を聞く 部屋の片隅
ヘッドフォンで断絶する
眼の端に映る切り取られた遠景に
落下してゆく 一点の黒い影

もうすぐ終わってしまうのだから

(それが嘘であってもいい)
(両腕で抱きしめている)
(壁が冷たい)

(あ)
(落ちる)


(ない、た)


自由詩 落鳥 Copyright 水川史生 2010-06-28 18:40:48
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