長距離走
ブライアン

ランドセルを背負った少年は気がついていた。
長距離走者の後ろには必ず、
テレビ中継車がいるものだと。

どこかの遠い悲劇は、誰かが
後ろから写真を撮っている。
だって、教科書には戦争の写真が載っているだろ。

あれと似たようなものだ。
戦争には写真家がいる。
長距離走者にはテレビ中継車がいる。

夏休みの最中、
一人の男性が両足を引きずりながら走っていた。
長距離走者に違いなかった。後ろからは、
ゆっくりと運転する乗用車。あれが、テレビ中継車だ。
だったら今しかないだろ、とテレビに映りたい少年は
手を振って声をかける。
がんばれ、ゴールはもう直ぐだ、と。

走る男は弱々しく答える。
ゴールなんかどこにもないんだよ、と。
後ろにいたテレビ中継車は、急にスピードを上げると、
あっという間に見えなくなった。
長距離走者は道に取り残された。

少年は、テレビ中継車を探した。もちろん、
それらしき車はどこにもなかった。
首をかしげて問う。どうして、
テレビ中継車はいないんだ?

ゴールのない長距離走を、
テレビ中継車は映さないよ、と長距離走者は答えた。


自由詩 長距離走 Copyright ブライアン 2010-06-27 23:38:50
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