長距離走
ブライアン
ランドセルを背負った少年は気がついていた。
長距離走者の後ろには必ず、
テレビ中継車がいるものだと。
どこかの遠い悲劇は、誰かが
後ろから写真を撮っている。
だって、教科書には戦争の写真が載っているだろ。
あれと似たようなものだ。
戦争には写真家がいる。
長距離走者にはテレビ中継車がいる。
夏休みの最中、
一人の男性が両足を引きずりながら走っていた。
長距離走者に違いなかった。後ろからは、
ゆっくりと運転する乗用車。あれが、テレビ中継車だ。
だったら今しかないだろ、とテレビに映りたい少年は
手を振って声をかける。
がんばれ、ゴールはもう直ぐだ、と。
走る男は弱々しく答える。
ゴールなんかどこにもないんだよ、と。
後ろにいたテレビ中継車は、急にスピードを上げると、
あっという間に見えなくなった。
長距離走者は道に取り残された。
少年は、テレビ中継車を探した。もちろん、
それらしき車はどこにもなかった。
首をかしげて問う。どうして、
テレビ中継車はいないんだ?
ゴールのない長距離走を、
テレビ中継車は映さないよ、と長距離走者は答えた。