Magic
umineko
孤独でない人間なんていない。
その事実だけが、私を安堵させる。
職場の上司が、手品を始めた。カード手品ってやつだ。時々、その成果を披露してもらう。だいたいは金曜日の飲み会である。飲み会自体が手品研鑽の場として存在してるんじゃないかとにらんでいるのだが、それはさておき。
そういえば。他界した父もそうだった。定年後だいぶ経って、突然何冊か本を買ってきて、猛然とマジシャンめがけて邁進した。そう書くとなんだか怪盗紳士のようなおしゃれなイメージを持つかもしれないが、もう本当にシンプルに、不器用なやせ形老年男子のおたわむれっていうか、いたずらが発覚した小学生でももうちょっとマシじゃないかと思うほどのぎこちなさだ。これをどこかの寄り合いで披露されるかと思うと、ほんと、期限付きで絶縁状を発行したくなるほどの出来映えだった。
先輩の、それなりに身に付いてきた大技(先輩はそう呼ぶのだが、カード手品のどこが大技なのかさっぱりわからない)を眺めながら、父のことを思い出す。
孤独でない人間なんていない。
おそらく父も。そこにいたはずだ。
今となっては、訊ねるすべもない。三途の川は、やたらと幅が広いそうなので、クラスマッチの25メートル平泳ぎでさえ途中で棄権した私としては、途中で深みにはまるのがオチだ。三途の川で溺れ死ぬ、というのは、シュールだが私の好みではない。
だけど。それでも聞いてみたいのだ。人生の最終コーナーで、マジシャンを目指した彼の真意は何だったのか。そのくらい伝授するのが、先人としての努めなのではないだろうか。
友達も増えました。心を許せる友もいる。父は他界したが、母はまだ健在で、なんやかやと私にからんでくる。
だが。それでも孤独なのだ。私はそれを自覚している。私のアプローチが、どこかゆがんでいるのだろう。マジシャンが、決して種明かしをしないみたいに、私は器用に両手を開く。
嘘もなければ幻もない。貴方は私を救えない。
私は今日も私を騙す。明日を生きていくために。
幸せだったり。孤独だったり。
貴方は私を救えない。