よぶん
佐藤真夏

くちばしの長く伸びた蚊に足の指を吸われながら
恋人の首をころりと乗せた二の腕の潰れ具合を計っていた。
前髪の先に留まるシャワーの残り水が
目尻を伝ってシーツにつくと、
空は落ち、
圧縮袋のなかで慰め合ってるみたいだね。

ナツメ電球のオレンジが
目に流れ込むとチカチカして、
階段を降りていくみたいに眠りに向かう。
うとうとして
そわそわして
しあわせだねしあわせだよねを連呼し、
耳を塞ぎたくなるほどの
あせり。

こぶしを握るように
震わせて閉じるまぶた
舌の先でぺろりんと舐め取った、よぶんが、
口の中で生きているのに、よぶんは、
よぶんでしかない、

小さな熱、
ひかりのかけら、
二の腕の、えも言われぬ潰れ方、

窒息、

欲情が砂漠に落ちる。


自由詩 よぶん Copyright 佐藤真夏 2010-06-27 20:31:46
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