繕いの午後
月乃助

六月の風
どこかにする
子どもの遊び声
落ちてくる手にあまる垂直な陽射しは、
すべての影を限りなく縮小し 見放し
あるがままの姿を投影してくれない
公園の木陰に一人ぽつねん
ベンチの女がくゆらす 消えていくたばこの煙
すべてを見つめ 目をそらさない
黒ぶちの犬の、そこだけは幸せそうな揺れる尻尾
真の自由を知ろうともしないくせに
日焼けした女の むき出しの痩せた肩に
すてられたラベンダーの花穂は、最後の芳香をはなち
あそこでは、主人を待ちのぞんむ緑の鉄製ベンチを
白い陽があざけるように焼いている
わずかなものを集めては、時を繕う午後
傾いた白い屋根に 煙のない煉瓦の煙突は、すべてを見ながら
知らぬ顔をする だまされたなら
子どもの手を引く母親のしたたかな足取りさえも 暮らしの
もの悲しいあきらめの音をきざんでいる
自転車に乗った白いTシャツ姿の おさない少女の横を
たった今震える枝の葉の下で、赤い車が通り過ぎた
見上げれば、はしからはしまでの
羽衣の雲をまとった青空の嘘ばかり、それがために
手にした三つ葉のクローバーは、なくした一葉を捜しながら
ゼラニュームの赤い花に問いかける
落書きされた電柱の孤独に立つその影の中で、
時間がゆっくりと、たちどまるように
ため息をつくように
芝の上を、風が抜けていく

凝視
私の時






自由詩 繕いの午後 Copyright 月乃助 2010-06-27 06:30:16
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