独奏
水川史生
落ちる飛翔を抱きしめている
遠景、クラシックのレコードの一室、朝を迎えない夜
果てまでのカウントダウンの抵抗を
爪弾かれる黒白と、久しく鮮やかに染まりたいと願う君の
底を知らず 墜落、透明に濡れる言葉と、
アクリルで色を付けた悲しみに浮いている
眩み続く 月並み、レトリック、音楽の産声を
あれが、君であったか
唐突から音飛びする暮れの日
薄暮、君が浸かる傘下の、白くあえかな腕を
引き上げるための音律を持たないスコアが、
散りひさぐ雨から滲む 光陰を
「されば、詩のためと言った君の優しさも」
すべてが美しいリズムでスピードで君を撫でますようにと
希うものさえ内側から、肌を破ってしまうのだから
銀色のペーパーナイフの腐食、あらば、他が為に
ストレッタ、邂逅、流線型と星へ飛ぶ鳥
言葉をいくつも連ねて 翅にする君の
ピアノの音階にアインザッツ、ソナチネの昇華
明くる日をと通り過ぎた世界へさよならが行く
「何度も手を振っている。愛を信じながら」
余白に埋めた涙を誰も知らない
葬られたハロー、月へと届く前に消えたメッセージの行方
白く上を向いた魚の腹へ注がれた恋情を
書きつけて詩に変えてうたう君の描く 独奏
ボルドーを貼り付けた眼で笑っている、
涼やかなメロンソーダが上がってゆく
(濡れた君は無邪気に笑んでいる。笑んでいる。)
(泣くことを知りながらgood-byeを唄う君は)
(感覚を失くしたままでいる。ゆえに、鋭い)
正しさを祈りながら水面に弧を写す
記憶を辿ったとしてももういないのだ、君の手を
君の手だけを、繋いでいた直線を
ゆるやかな残像が立ち止まったままで
仰ぐリタルダンドの序奏を待っている
「愛しさの上に成り立っている。君は。世界は」