出張
ブライアン

声をかけた男の肌着は、破れて黒ずんでいる。
手に持ったビニール袋には、アルミ缶がぎっしりと詰まっている。

やあ、おはよう、と男が声をかけると、
湿度の少ない土地の、よく晴れた空は、
やあ、おはよう、と答える。

−年賀状ソフトって知っているか?
 開発したのは僕なんだ。
 出張中、航空券を落としてしまってね。
 それで、鹿児島から広島まで歩いてきたってわけ。
 東京までまだ遠いよね?どのくらいかかるんだろう?
 もし、君に余裕があるなら、東京までの旅費を僕にくれないかな。

出張中の長い旅だ。
拒まれた提案に、彼は微笑む。

−幸運を祈る。
 だって、君は出張中なんだろ?

破れた肌着から、
露出した尻が見える。
通り過ぎた彼方に、おはよう、と響く。
自転車が抜き去る。
彼の声は、橋の上を走る車に届く。
車たちは今、赤信号に立ち止まっている。



自由詩 出張 Copyright ブライアン 2010-06-26 08:22:42
notebook Home