トマトの食べ方
ふくだわらまんじゅうろう

トマトの正しい食べ方は
生のまま
程よい大きさに切って
塩と
胡椒と
オリーブオイルと
酢をかけて
そのまま食べるのだと
ずっと思っていた

どんなに凝った食べ方をしても
これ以上の食べ方はない
そう思っていた
そう思って
生きてきた。でも
そうではないということを
うすうす
感じていたのかもしれない

トマトなんて
俺には
きっと
過分だったんだ
こんなにも美味しくて
こんなにも栄養があって
こんなにも美しくて
こんなにも人気のある
トマトを
俺が喰っていいわけが
ないんだ

もう二度と
トマトを食べるまいと
何度も思う
何度も思って
また
食べてしまう
そんな気持ちを
トマトは知らない

トマトの素晴らしさを知れば知るほど
俺は小さくなっていった
トマトの不十分さを知れば知るほど
俺は自分の醜さを思い知った
トマトにも
トマトを作った人々にも
トマトを愛する人々たちにも
罪はないのに
俺は何かを
十字架に架けなければ気がすまなくなってしまっているんだ

トマトを我慢できないのなら
死んでしまえばいいのに
トマトに我慢できないのなら
死んでしまえばいいのに
こんな苦しみを続けてゆくくらいなら
俺なんて死んでしまえばいいのに
こんな苦しみの海に溺れてゆくのなら
人類なんて…

どんなに慎重に塩を選んでも
どんなに気をつけて胡椒をかけても
どんなにオリーブオイルが新鮮であっても
どんなに酢が素直に酸っぱくても
もう
手遅れのような気がするんだ

どんなに美味しくても
どんなに栄養があっても
どんなに美しくても
どんなに愛されていても

俺はそんな真実のすべてに
断罪されて
あの階段を上りたいんだ
きっと、そうなんだ



自由詩 トマトの食べ方 Copyright ふくだわらまんじゅうろう 2010-06-25 00:01:45
notebook Home 戻る