残光
水川史生
君の背中にナイフを突き立てる
爆撃したその空間から飛び散る欠片にキスをしようと
思い立ってから飛びだすまで三秒の間さえも存在しなかった
鋭利 トリガー 貫いては焦点 繰り返される弾丸のスピード
君が殺しにかかるいくつもの僕が叫んでは粒子に変わっていく
もう 鮮やかさを捨てたのです
どうせ君の瞳には何も映らないので
本当はずっと前から知っていたけれど
もう 捨てたのです
クラクションの次の衝撃
吹き飛ばされる身体に雨が打ちつけては飛散
打ち抜かれる鍵盤がやがて弾けて僕の鼓膜を引き裂く
通り過ぎる君は見ないふり
穿たれる僕は声ばかりを押し殺して
虐殺される悲鳴に眠れない夜
あの音を憶えているか その旋律を歌っているか
遠ざかるピアノの音階ばかりが君を高みへ押し上げるだろう
その中で僕は春さえも迎えることが出来ない
砂糖菓子のような甘さで 君は僕を惨殺する
日めくりのカレンダーが染まっていく
嘆いた太陽は等しく僕を殺しに来る
古びた雑居ビルからのダイヴ 抵抗感のない無重力で
真綿で首を絞めていく君の朝が僕を飲みこんでいく
すべて終わっていただろう と かすめ取る月さえ無残に砕ける
残響音 残響音 ハウリング ノイズ ノイズ ノイズ
君の愛しているが僕を劈く
目を塞いでいる 脳に直接流れてくるその爆音を君は知らない
解ったように語るすべてをやめてくれよ 僕は髪を切り落とすしかない
呟かれる言葉で形成される世界 君が遂に見なかった僕のてのひら
合わせては飛び退る環境音に騙される背中越し 何も知らない
発する記号もないままで 解き明かすという発光さえない
軽やかに先へ向かう君の足元で いくつもの指が死んでいるのに気付いているか
祈りは届かない 紡ぐ詩篇は焼かれてしまった
僕が盲目なままであらわしていた情景に雨が降っている
傘が落ちる
さよならを聞いたか
垂れ流していた音楽に触れたか
そうしてまた泣くのだろう 君は 君は
真白の紙に刻まれる血の憂鬱を君は齧らない
喰らっては黒く変色してゆく暗澹が 暮れていくスクリーンを埋めたとしても
余白に書かれる消えかけた僕の直線も 君の心臓を留めることが出来ない
葬られて炎上する 片手をあげる僕の手首から放たれる意図を
水没するその中で眠りの端を探している
君が弾圧するそのすべてを僕は抱えて死に走るだろう