とうとう聖痕を得てしまった僕の友達について
真島正人
君の調子がどうだか
気にならないし
君の虚偽が
いくつずつ
世界の果てに通信されていくのか
知りたくもないよ
この世は
通信教育なんかじゃない
僕は昨日
大型書店の
人文科のコーナーにいたし
一ヶ月前は
図書館の
科学のコーナーにいたのさ
そんな静かな場所から
雨漏りを見つめている
雨漏りは
目に見えないって君は言っていたけど
それは嘘だなってとうとう気づいたよ
雨漏りは
雨漏りとして
見る必要がない
君が虚偽を気にするわりには
それを信頼していること
そのことを
当てはめて
解を求めればよかったんだ
※
午前中に出しておくクリーニング
去年、湿気てしまった愛が化石になり
その代わりに密度が増してる
抱きしめて暖めておいたよ
写真でも撮ろうか
それから
洋服を取りにいこう
だってもう午後
時間の過ぎ去り方は
方程式を逸脱している
※
戻っていく君
君の誇らしげな顔が
高等部の校舎脇にかすんでいる
君は白い壁によく似合う笑顔で
まっさらな制服に身を包んでいる
汚されることが
約束されているんだ
僕の位置からはよく見えるよ
君のその
新品の制服のカラーににじみこんでいく
土ぼこりと汗と
古くなって離脱した皮膚の組織が……
君はその、
もっと、
たくさんのものを捨てていくべきだった
皮膚が
更新され
捨て駒のように
切り離すように
君自身ももっと
もっと
たくさんの君の
内側に
潜むものをさ
※
ここから
ここまでと
線引きをして
そこから
好きな場所を覗く望遠鏡が
欲しいけれども
どんな
古い町の
骨董品屋さんにも
置いてはいないよ
君があるものの形を
仮に
聖痕として受け止めたように
そこから幾滴か血が
形而上の出来事のように
流れ出たように
僕は僕なりの
あるものの姿を探してる
君は僕を
効率が悪いと罵り
僕は君を
悲しい目で見つめているよ
※
二人の
住む町が
同じ時間に
誘導
されていけば良いな
数え切れぬほどの
緑の木々が
いつか僕たちをねぎらって
そしていろんなことを
忘れていける
望遠鏡から
覗き込まない日々が
形を
与えられればいいな
※
願わくば
うとうと眠り、
気がつけば
全部忘れているような
そんな幸福が
満たされた
場所を
見に行きたいな
遠い昔の
母親の
誰にでも
一度はきっと
与えられたあの
太陽のにおいのする布団のように
許されてそこに
潜り込みたいな