メレンゲの恋
うめぜき




石畳の路
無数の傘がふわっと咲いた
メレンゲの心が少し浮き上がる
赤、白、青と色とりどりの傘の中を
空から鉱山夫達を乗せた汽車が降りて来る
蒸気を吐き出し、漆黒のボディを捻り、
アダレの街に汽車が降りた

ポパイは鉱山夫だ
アダレの街は空に浮く鉱山のお陰で
国でも有数の賑やかな街になった
鉱山夫という自分の仕事が街を支えている
その誇りを汽車からの街の風景を見、感じるのだった
そのアダレの街に今汽車は降り立とうとしていた

色とりどりの傘が男達を出迎える
メレンゲは誰かを待っていた訳でも無かったが
その風景に胸を焦がす
雨に濡れた漆黒の汽車はまるで花畑に降り立つようで
メレンゲはときめいた

やがて傘は一人ひとり男達を連れ去っていく
一人ひとり消えていった

ある男がいた
傘に入らずに、雨に濡れながら
石畳の路を北へと向かった
泥だらけで、屈強そうな男だ
雨に濡れながら
胸を張って歩いた

メレンゲはその男を眼で追った
美しく見えた
ポパイの足取りが力強い音楽に変わる
雨粒を弾いて
ポパイは全身でアダレの街を音楽で満たした
姿の良い
なんて姿の良い人だろうと
メレンゲは思った

それからメレンゲは毎日、鉱山夫を乗せた列車を出迎える
ポパイの姿を追った
ポパイはいつでも胸を張って
ある時は重厚に、ある時は軽やかに、またある時は賛美歌のように
街を音楽にした
メレンゲはポパイをいつも焼き付けた

  ※

鉱山で事故が起きたのはそれから1年が経った時のことだった
あの男が奏でていた音楽を思い出そうとして
思い出せずに、胸を締め付けた
それでもメレンゲは待ち続けた
街全体が喪に服し、その喪が明けても
メレンゲは空を見上げた

  ※

ロンダはメレンゲの話を最後まで聞けたことがなかった
いつも眠たくなり、眠ってしまうのだった
メレンゲの話はやがて音楽となり
美しくロンダの耳を潜り抜けてしまうからだった

ロンダは夢の中で空を見上げると
決まってアダレの空を行く鉱山の周辺で
漆黒の汽車がぐるぐると回遊している

辺りは次第に明るくなる

蕾だった花々がふわっと咲き乱れはじめた
赤・白・青
汽車は空を浮遊する

メレンゲの歌が響いている
悲しげだが、美しく響いている
花々が揺れる
美しい歌が響いている





自由詩 メレンゲの恋 Copyright うめぜき 2010-06-22 03:49:57
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